農水省と環境省が21日、トマトなどの授粉に使うセイヨウオオマルハナバチの出荷量を2020年までに半減させる方針を決めた。現場ではクロマルハナバチなど在来種への転換を進める動きが広がるが、セイヨウオオマルハナバチしか使ったことのない農家からは「代替種で、しっかりと授粉できるのか」との声も上がる。
愛知県豊橋市のトマト農家、大澤幸弘さん(41)は国の動きについては「少し前から聞いていた」と冷静に受け止める。大澤さんは「セイヨウオオマルハナバチ(以下セイヨウ)はよく飛んで、しっかりと授粉してくれる」と授粉の大部分で使ってきた。今後も「使える限りは使っていきたい」というのが本音だが、代替のクロマルハナバチ(以下クロマル)の利用を視野に入れる。クロマルは購入価格は同水準だが、使用経験が少なく「資材として使う以上は、セイヨウ並みに働いてくれなければ困る」と話す。
クロマルがいない北海道では、道在来種のエゾオオマルハナバチ(以下エゾオオマル)の実用化を検討する。施設トマト産地のJAびらとり管内では15年7月に、三、四番花の授粉に放飼試験したが「着果性はセイヨウと遜色なかった」(JA営農生産部)と言う。シーズンを通して使えるか引き続き検討する。
JAトマト・胡瓜(きゅうり)部会の部会長を務める石浦政司さん(61)は20年以上、万全の対策を取りながらセイヨウを利用してきた。「在来種が使えるようになれば早く移行したい。部会員も期待している」と話す。
全国野菜園芸技術研究会会長で、栃木県栃木市のトマト農家、大山寛さん(66)は「切り替えを進めるには農家への丁寧な情報提供が必要」と強調する。
大山さんはJA全農のトマト栽培実証施設「ゆめファーム全農」の技術担当を務め、クロマルを使用。動きが少ないと感じるが「使う蜂の数を増やせば大きな支障はない」とみる。「初めての農家が不安を感じないよう、使用事例や経験を農家と国が協力して発信することが大切」と指摘する。
働きぶりは同等 販売業者
オランダやベルギーなどで花粉媒介昆虫として利用が進んでいたセイヨウ。日本でも、面倒な植物成長調整剤散布から解放され省力化につながり、各地のトマト産地に広がった。03年には出荷量が約7万箱(1箱=通常50〜60匹)に達した。
06年に特定外来生物に指定され、使用には許可が必要。ハウス内での飼養は、開口部へのネット設置など外部に逃げないように管理する場合に限定され、毎年1万3500〜1万5000件ほど許可されている。
06年以降、クロマルの出荷量が増加。15年はセイヨウは6万箱、クロマルが3万箱だった。
環境省は「外来種の利用をなくしていくことが基本的な考え方」としているが、同省と農水省は、急に使えなくなると農業者に混乱が生じるとして、代替種を使う道を模索。新たな方針では本州、四国、九州と奄美大島以南はクロマル、北海道では在来種のエゾオオマルを代替候補と位置付けている。
マルハナバチを販売するアリスタライフサイエンスは「出荷するマルハナバチの半分がクロマルに切り替わってきた」と話す。光畑雅宏プロダクトマネジャーは「働きは2種とも何ら変わらないことが実証されている。使い勝手が違うかもしれないが、ノウハウをしっかり伝えていけば定着するはず」と考える。
<ことば> セイヨウオオマルハナバチ
マルハナバチの仲間で、欧州原産の外来種。1992年に本格的に輸入が始まったが、北海道では在来種のマルハナバチと生息地や餌の取り合い、交雑が確認された。環境省は06年、生態系に被害を及ぼす恐れのある「特定外来生物」に指定した。