2017年03月17日

保護されるサルと殺されるサル 交雑種57頭はなぜ殺されたのか

 2月、千葉県富津市の高宕山(たかごやま)自然動物園でサル57頭が殺処分されたという報道がありました。同動物園ではニホンザルを飼育していましたが、この57頭は外来種であるアカゲザルとの交雑種であったことがDNA検査の結果、明らかになったため、特定外来生物法に基づいて駆除した、というのが理由です。

 東京都も、伊豆大島のキョン対策として新年度約4億円の予算を計上し、根絶を目指すなど、全国の自治体は増え続ける外来生物に対し、同様の取り組みを実施しています。なぜこのような殺処分に多額の予算がかけられるのでしょう。そして、保護される生物のために、排除する生物を設けるという対策は本当に適切なのでしょうか。

 交雑種サルなど外来生物に対する駆除政策が内包する課題を、環境政策論・環境社会学が専門の龍谷大政策学部・清水万由子准教授が「千葉県高宕山自然動物園における交雑種サル駆除は何を問うているのか」と題して、整理します。

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なぜ、57頭のサルは殺される必要があったのか

1. はじめに

 2017年2月20日、千葉県富津市はニホンザルを飼育する高宕山自然動物園の全164頭をDNA鑑定した結果、57頭が外来種であるアカゲザルとの交雑によって生まれたサルだったことが明らかになったと発表した。57頭の交雑種サルは、特定外来生物法に基づき殺処分されたことが報じられた(*1)。

 なぜ、57頭のサルは殺される必要があったのか。

 結論を先取りして言えば、有害な影響を与える外来種は排除し、日本に特有の在来生物は保護するという制度に則って、今回の処分は行われた。

 しかし、回避すべき「有害な影響」とは何か、「日本に特有の在来生物」がなぜ保護されるべきなのかは、この日本社会において自明なことだと言えるだろうか。

 次々と新しい外来生物種が登場し生息域を拡大する中で、国際的にも国内的にも法制度の整備が進む一方で、その根拠を問う社会的議論は後回しにされがちである。

 本稿ではこの問題が私たち人間と自然の倫理に対する問題提起を内包していることを指摘したい。

もともと実験動物として輸入されたアカゲザル

2. なぜ交雑種サルは殺されたのか?

2-1. 特定外来生物法によるアカゲザル交雑種の飼養禁止

 今回問題となっているアカゲザルは、ニホンザルと同じオナガザル科マカク属で、中国、インド、チベットなどに生息するサルである。ニホンザルとは非常に近縁で、外見はよく似ているが、ニホンザルより少し尾が長い。アカゲザルは脳科学等の実験動物として広く利用されており、日本においても中国から輸入して利用されてきた。

 マカク属にはアカゲザルとニホンザルの他にタイワンザルやカニクイザルなどが含まれるが、これらは種間交雑が可能で、交雑により生まれた個体も生殖能力を持つとされる。

 アカゲザルは2004年に制定された特定外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)において特定外来生物に指定されており、2014年にはニホンザルとアカゲザルの交雑種も特定外来生物に指定されている。これにより、アカゲザルおよびアカゲザルとニホンザルとの交雑個体のいずれも許可なく飼養、運搬することが禁じられている。また、愛玩・観賞のための飼養は許可されない。

 したがって、高宕山自然動物園において57頭の交雑種サルが殺処分された理由の1つは、特定外来生物にあたるニホンザルとアカゲザルの交雑個体を飼育することは制度的に不可能であったということである。

高宕山地区はニホンザル生息地として天然記念物指定されていた

2-2. 高宕山地区におけるニホンザル生息地保護とアカゲザルの拡大

 交雑種サルが殺処分された背景がもう1つある。それは、高宕山自然動物園の周辺が、ニホンザルの生息地として1956年に天然記念物指定されているということである(*2)。

 つまり、この高宕山地区はニホンザルの生息地として保護される必要があり、そこにニホンザルではない交雑種サルが群れに混じって交雑が進んでいくことは、天然記念物保護の観点から回避すべきであるということだ。

 そもそも、外来種であるアカゲザルがなぜニホンザル生息地の高宕山地区に存在するのか。

 房総半島の南端部ではもともとサルは生息しないと考えられていたが、房総半島の南端に位置する白浜地区では県の調査によって、野生化したアカゲザルの群れの存在が1995年に確認されている。千葉県は特定外来生物法が施行された2005年から本格的にアカゲザルの駆除を行っているが、この間に半島南端部のアカゲザルの群れの拡大と、房総半島中央部の高宕山地区のニホンザルの群れとの交雑が進んだと考えられる。千葉県が2013年に公表した調査の結果では、木更津市などの6市町村で交雑個体が発見されている(*3)。房総半島南端部のアカゲザルの群れのオスが半島中央部のニホンザルの群れと行き来していることも確認されている(*4)。

 今回のケースでは、高宕山自然動物園の老朽化した檻の隙間からニホンザルが園外に出て、野生化したアカゲザルや交雑個体と接触したと考えられている。檻の中で飼育されていたはずのニホンザル群の中に、実は飼育が禁じられているアカゲザルとの交雑個体が含まれていたのである。

外来生物種による「被害」とは何か。

3. 交雑種サルは何をもたらすのか? 

3-1. 人間の生活に対する被害

 特定外来生物法では、国、自治体、民間団体による特定外来生物の防除(駆除)の重要性を認めており、特に地域における被害防止のための取り組みを推進している。では、外来生物種による「被害」とはそもそも何だろうか。

 第一に、人間の生活に対する被害がある。その中心は農地などに侵入して農林産物を食い荒らすなどの被害である。富津市が設置した天然記念物「高宕山のサル生息地」のサルによる被害防止管理委員会では、群れから離れたサルが農作物を荒らす被害がたびたび報告されている(*5)。

 しかし、今回殺処分されたのは、高宕山自然動物園で飼育されていたサルである。農林業被害とは関係がない。

 もう少し射程を広げて、房総半島の交雑種サルの増加について考えてみよう。農林業被害は、交雑種サルがもたらした問題だろうか。そうではない。

 千葉県の場合は、もともとサルのいなかった房総半島南端部にアカゲザルが拡大していることから、サルの分布域が半島に拡大していると考えれば、外来生物種の移入により農林業被害が拡大したと考えることもできる。一方で、1960年代以降ニホンザルの分布域は全国的に拡大しており、有害鳥獣として駆除されるケースが少なくない。千葉県でも高宕山地区が天然記念物指定された1950年代と比べると、ニホンザル個体数の増加および農林産物の被害が確認されている(*6)。

 農林業被害は交雑種ザル固有の問題ではなく、ニホンザルやアカゲザルも引き起こしている問題である(*7)。

 また、今回は問題となっていないようだが、外来生物種が新たな病原菌拡散の原因となる場合もあり、人間の生命に対する被害が生じる可能性もある。

「ニホンザル」という種を守らなければならないという議論

3-2. 房総半島の「ニホンザル」消滅の可能性

 第二に考えられる被害として、「房総半島の純粋なニホンザルが消滅してしまう可能性」(*8)を一部の科学者たちは盛んに問題提起している。ニホンザルとアカゲザルの交雑が拡大しながら繰り返されることで、長い年月をかけた進化の末に獲得された「ニホンザル」の遺伝子セットは維持されず、房総半島ではほぼ永久的に失われてしまうという懸念である。他地域のニホンザルの遺伝子への影響がないとも言えない。この論理は、和歌山県のタイワンザル問題でも展開され(*9)、このような主張を優生思想と重ね合わせる議論もある(*10)。

 そもそも数十万年前に分化したと考えられるニホンザルとアカゲザルの遺伝子の差異は、それほど大きくない。交雑可能なものは独立した種とは言えないという「種」の考え方もある。ニホンザルという「種」が何としても守らねばならないものなのかどうかは、科学によって答えが出るものではなく、社会的合意に依存する(*11)。

 しかし、そのような社会的合意はすぐにできるものではないため、合意形成にかかる時間を確保するために当面ニホンザルという種を保存する努力が必要という考え方も可能である。

 逆に、ニホンザルの遺伝子セットさえ保存できればよいのであれば、アカゲザルや交雑種サルの駆除以外にも方法は考えられる。野生のニホンザル個体群をどのサイズで維持する必要があるのかが問われるだろう。

外来生物が生態系に対する影響とは何か

3-3. 生態系に対する不確実な影響

 第三に、外来生物種が周辺の生態系に何らかの影響を与え、生態系の安定性が失われるという被害が考えられる。

 在来魚を捕食するブラックバスや、旺盛な繁殖力でヨシやススキ等を駆逐したセイダカアワダチソウなどは一般にも知られているが、外来生物種によって地域の生物相を構成する在来生物種が駆逐されることがある。外来生物種は地域固有の生物相や生態系を大きく変えてしまう可能性がある。

 一方で、生態系は動的なものであり、災害や人為的な介入などの撹乱を前提とした生態系保全を考えざるを得ない。また、外来生物種だけでなく開発や汚染による自然環境の変化が地域固有の生態系を変化させていることから、外来生物種を駆除しても元の生態系に戻るとは限らないことにも留意する必要がある。もっとも、ダイナミックに変化する生態系を、特定の”元の”状態 に戻すことにどのような意味があるのかが問われるだろう。

 そのような基本問題はありながら、外来生物種による生物多様性の喪失は、すでに国際的な政策課題となっている。生物多様性条約では、種の絶滅の原因となる侵略的外来生物種の制御・根絶を目標として掲げており、締約国における取組みを求めている(*12)。

 今回のケースでは、交雑種サルが増えてニホンザルに代わっていくことで、生態系の中でどのような変化が起こるのか、またニホンザルという「種」にどのような影響を与える可能性があるのか、まだわかっていない。

 この点に関しては、生物多様性条約で「科学的な不確実性をもって対策を講じない理由としてはならない」という予防原則が引用されていることから、これを批准している日本でも、科学的知見を充実させる努力とともに交雑の進行という変化を回避する対策が導かれるのである。

保護されるサルと殺されるサル 交雑種57頭はなぜ殺されたのか

「地域住民がどれだけの費用をかけて何をどこまで守りたいのか」を重要な検討材料に

4. どうすべきか?

4-1. 合理的な対策 ── 根絶か間引きか

 高宕山自然動物園では応急的な措置として檻を補修し、今後園外のサルと飼育するニホンザルが交わらないようにするという。では、高宕山地区、ひいては房総半島の交雑種サルをどうするべきか。

 千葉県特定外来生物(アカゲザル)防除実施計画検討会長を務めた丸橋氏は、「最終的管理目標はアカゲザル母群の全頭除去、房総ニホンザル個体群からの交雑個体の除去であることは明白である」と述べている(*13)。

 一方で小谷(2015)は、奄美大島のマングース駆除に10年以上の時間と数億円の国家予算がつぎ込まれても根絶は容易でない現実を指摘する(*14)。駆除を進めて対象個体が減ると捕獲が難しくなるため、根絶にはそれを可能とする技術と費用が必要である。かけられる費用に限界がある中で、すべての外来生物種を根絶することは現実的な目標とはいいがたい。一方で、個体数を一定程度まで抑える「間引き」を長期にわたって繰り返す方が合理的である場合もあると小谷(2015)は述べている。

 根絶にせよ間引きにせよ、房総半島の交雑種サル問題の場合はどちらの戦略が合理的であるのかを考える必要があるし、地域住民がどれだけの費用をかけて何をどこまで守りたいと考えているのかを把握し、重要な検討材料とすべきである。

私たちはどう自然と向き合うべきなのか

4-2. 対策への社会的合意 ── 科学か価値か

 アカゲザルと交雑種サルの根絶を求める科学者たちは、この問題についての科学研究と社会教育を進める必要性を主張する(*15)。交雑種による生態系影響など、交雑種サルが生態系や人間の生命・生活に影響を与えるリスクを解明する努力は必要である。起こりうる事態の予測と問題解決に使える知識・技術を増やし、より多くの人が理解することには一般的に考えて意味がある。

 しかし、ここまでに述べてきたようにこの問題は有限の社会的資源を用いて人間が守るべき自然(種、生態系、生物多様性)は何かという人間と自然の倫理についての問題提起を含んでいる。科学的知識は私たちが倫理を考える助けにはなっても、倫理そのものを導いてはくれない。社会的合意の鍵は科学的知識の欠如を埋めることではなく、多様な価値観の折り合いをつけることにある。

社会的合意とは、白黒をつけることではなく、折り合いをつけること

5.おわりに

 多様な価値観の折り合いをつけるためにはどうしたらよいのか。ここで十分に展開することはできないが、筆者が1つの手かがりとなると考えているのは、人間と自然(サル、環境)との関係の重層性に注目することである。

 サルは人間にとって愛玩の対象であり、時に畑を荒らす害獣であり、またある時は信仰の対象になることもある。日本列島に固有の生物ということに特別な思いを抱く人も、そうでない人もいるだろう。それより先に解決すべきもっと重大な問題があると考える人もいるだろう。時と場合により、また人によりサルに対して抱く感情や判断は様々であるが、互いに矛盾するものも含めて、地域環境の中で積み重ねられてきた生活経験と知識がある。社会的合意とは、それら多様な経験や知識に白黒をつけることではなく、折り合いをつけることである。

 それらを踏まえてサルを含む自然がどのようにあるべきかを再評価するならば、あるべき自然の姿は単一ではなく、その方法も画一的なものではなくなるだろう。あるところではこうだが、また別の場所ではこうだというような、モザイク的な自然の姿が描かれるかもしれない。それを具体化する際には、科学的知識や技術の力が欠かせない。

 今回の処分は制度によって定められたものであったが、じつは制度の外にいるかのように思っている私たちに、自然とどう向き合うかを問いかけている。

(*1)千葉日報2017年2月21日
   朝日新聞2017年2月20日
   日本経済新聞2017年2月23日

(*2)前出の千葉日報によれば、高宕山自然動物園は指定地域外である。

(*3)2008年度から2011年度にかけて行われたこの交雑モニタリング調査では、高宕山自然動物園がある富津市では交雑個体は発見されなかった。

(*4)白井啓(2013)「千葉アカゲザル問題の概要と位置付け」『霊長類研究』29号、138-142.

(*5)富津市ウェブサイトなお、この場合はニホンザル、アカゲザル、交雑種サルの識別はなされていない。

(*6)アカゲザルは果実、木の葉、穀物、昆虫などを食べる雑食性で、ニホンザルの食性に似る。

(*7)千葉県(2015)「第3次千葉県第二種特定鳥獣管理計画(ニホンザル)」

(*8)大井徹・河村正二・竹ノ下祐二・浅田正彦・山田文雄(2013)「千葉県の外来種アカゲザル問題を考える」『霊長類研究』29号、137-138.

(*9)立澤史郎(2009)「外来対在来を問うー地域社会のなかの外来種」鬼頭秀一・福永真弓編『環境倫理学』東京大学出版会、111-129.

(*10)瀬戸口明久(2003)「移入種問題という争点ータイワンザル根絶の政治学」『現代思想』31(13)、122-134.

(*11)丸山康司(2013)「社会倫理の点からアカゲザル問題を考える」『霊長類研究』29号、163-165.

(*12)侵略的外来生物種とは、外来生物種の中でも生態系や人間活動への影響が特に大きいものを指す。日本においてこの概念に対応する生物種を特定するために2015年に環境省が作成した「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」にはアカゲザルが含まれている。

(*13)丸橋珠樹(2013)「千葉県のアカゲザル問題:管理の目標設定とロードマップ」『霊長類研究』29号、159-163.

(*14)小谷浩二(2015)「外来種の制御と管理」大沼あゆみ・栗山浩一編『生物多様性を保全する』岩波書店、143-164。

(*15)大井ほか,前出。

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Posted by jun at 2017年03月17日 15:45 in 外来生物問題

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