滋賀県のびわ湖に浮かぶ竹生島の岩場には、年に一度現れるかどうかという、神様の遣いが住んでいる。竹生島の「弁財天」の遣いとして、黄色いイワトコナマズは漁師から大事にされてきた。
長浜市西浅井町菅浦で今では2人だけというナマズ漁を行っている友井勝さん(71)は「昔からの習わし。捕れたら、すぐ逃がしてきた」。
イワトコナマズは、びわ湖にすむ約60種類の固有種の一つ。黄色いナマズは同じく固有種のビワコオオナマズや普通のナマズでもまれに見つかるが、イワトコナマズが群を抜く。「弁天ナマズ」の別名があるゆえんだ。
びわ湖のナマズに詳しい神戸学院大教授の前畑政善さん(64)は「イワトコナマズは限られた岩場にすみ、その範囲内で交配する。このため、色素のないアルビノが生まれやすい」と考えている。
体長は大きくても60センチほどで、目は顔の真横。夜行性で警戒心が強く、夏の深夜に岩場で産卵すること以外、生態がほとんど分かっていない。稚魚が何を食べ、どんな生活を送っているかも謎だ。
国の準絶滅危惧種にもなっているこの魚は今、さらに危機にある。原因の主は外来魚。友井さんは「ブルーギルが卵を食べてしまう。15年前なら1日に50〜60キロ捕れたが、今は2〜3匹」と嘆く。前畑さんは「えさとなる小魚やエビが奪われているようだ」と指摘する。
県水産試験場(彦根市)は2000年以降に計3年、イワトコナマズの養殖を試みた。担当した根本守仁さん(44)は「希少で味もおいしいこの魚が少しでも増えれば、という思いでした」。200匹を約15センチまで育てたが、配合のえさを食べないなど、結局うまくいかなかった。
近年は、業者がイワトコナマズの卵を持ち去ったり観賞用に高値で売る例もみられるという。黄色いイワトコナマズは竹生島の弁天様に、こうした人間の行いをどう伝えているだろうか。