中央アメリカを縦断する運河の建設計画が、ニカラグアで進められている。中国の支援によるこのプロジェクトは、周辺の野生生物や湿地帯の生態系に危険を及ぼす恐れがあるという。
ニカラグア当局は昨年6月、環境影響調査が終わらない内から、中国政府との関係が指摘されている香港系の企業「HKNDグループ」に対し、400億ドル(約4兆円)規模の建設計画を委任した。太平洋とカリブ海を結ぶ運河の全長は実に300キロ。完成すればパナマ運河と並ぶ巨大な人工水路が生まれることになる。
しかし、今月19日に公開された「Nature」誌の論文で、2人の著名な環境科学者が、同国の自然環境がズタズタになると警告している。「だれも足を踏み入れていない、学術的にも重要度が高い地域の生態系が崩壊する恐れがある」という。
ナショナル ジオグラフィックは、執筆者のホルヘ・A・フエテ・ペレス(Jorge A. Huete-Perez)氏にインタビューし、運河建設の問題点を語ってもらった。同氏は、首都マナグアにある中央アメリカ大学(UCA)の分子生物学研究センター(Centro de Biologia Molecular)で責任者を務めている。
◆運河の建設で40万ヘクタール分の熱帯雨林と湿地帯が破壊されると述べていますが、特に影響が大きい地域は?
既にHKNDグループに認可が下りている段階ですが、まだルートや規模の詳細は未定です。一部の政府筋の話では、カリブ海に面したニカラグア東岸の町ブルーフィールズのラグーンから、太平洋沿岸の集落ブリットをつなぐルートになる可能性が高いようです。
このルートからHKNDの運河建設計画の影響を受ける範囲を推算しますと、カリブ海沿岸部の森林や保護区域、湿地帯、内陸部に及ぶとみられます。これらの地域は、先住民族が所有権を有する自治区でもあります。
運河や幹線道路、東西沿岸部を結ぶ鉄道システム、油送管が敷設され、自由貿易地域となる周辺には2カ所の国際空港が建設される予定です。湿地帯は干上がり、広葉樹が茂る森林地帯も破壊され、沿岸部や内陸部、大気、また淡水の野生生物の生息地が脅かされる恐れが否定できません。
◆ルート上にある3カ所の保護区、ボサワス生物圏保護区やインディオ・メイズ生物保護区、セロ・シルバ自然保護区の生態系にはどのような影響が及びますか?
運河は10年ほどで完成する見込みですが、関連プロジェクトも含めて開発と工業化が進むと、その影響はニカラグア湖や大西洋側の自治区だけに留まりません。ユネスコの生物圏保護区に指定されているボサワスやインディオ・メイズ生物保護区、セロ・シルビア自然保護区にまたがる大規模な自然保護区域「メソアメリカ生物回廊(MBC)」の生態系にも悪影響が及びます。
MBCの野生生物の移動ルートは遮断され、運河や鉄道、油送管敷設のために森林も伐採を余儀なくされるでしょう。貴重な湿地帯も干上がるか、計画中の国際空港や工業区域の用地として埋め立てられてしまうのです。
◆ニカラグア湖への影響は?
中南米最大級の淡水域であるニカラグア湖と、2つの火山から成るオメテペ島の生態系への影響は甚大です。巨大運河の開通後は、船舶の数が激増します。水深が非常に浅いニカラグア湖で通行の安全を確保するためには、浚渫(しゅんせつ)工事が避けられません。カリブ海に排土するためには、相当数のダムを周辺の河川に建設する必要性も出てくるでしょう。
また、湖の海抜はかなり高く、必要な運河の水位を確保するために、東西に水門を設けなくてはなりません。しかし工業化が予定されている水門付近の水域には、海水やディーゼル廃油などの排出物が滞留する危険性があるとの調査結果も出ています。さらに淡水の枯渇や温暖化、ニカラグアの人口増などの条件が重なると、湖の生態系は回復不能なダメージを被ることになるのです。
湖には繊細な固有種の魚類が多く生息していますが、外来種の流入によって既に危機的な状況に追い込まれています。コンテナ船など外航船が増加すれば、汚水や廃油の放出が避けられません。洗浄・殺菌する最新技術を用いたとしても、外来種や病原菌の流入を完全に防ぐことはできないでしょう。
ニカラグア湖に浮かぶオメテペ島には、開発の手が及んでいない森林や火山など、生物多様性に富んだ自然が広がっています。考古学的価値の高い太古の遺跡も存在し、エコツーリズムの可能性も秘められています。大量の船舶の航行ルートが、この島のすぐ脇を突っ切る事になるのです。運河建設の最も大きなデメリットに違いありません。
◆国際社会はどう対応すべきでしょうか?
私たちは、HKNDの運河建設の影響評価に関する調査活動を支援してもらうよう、国際社会に呼びかけています。功罪両面を含むすべての情報を、ニカラグア政府をはじめとする世界中の人々に見てもらいたい。すぐにでも、環境と社会への影響度を中立的な立場で調査する必要があるのです。
Brian Clark Howard, National Geographic News
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Posted by jun at 2014年02月28日 19:29 in 外来生物問題, 自然環境関連