2013年07月16日

古代湖・琵琶湖の微小生物に人間が期待する「医療」「エネルギー」「環境浄化」

 「琵琶湖の生い立ちと、そこで育まれた生物の進化のストーリーを描き直したい」
 平成18〜24年度の7年間にわたる琵琶湖の微小生物生息調査を手がけた県立琵琶湖博物館の研究は今、新たなステージに入っている。400万年前から刻まれてきた琵琶湖の歴史について、これまで定説とされてきた考えをリセットし、生物学や地質学など多角的な視点で一から見直そうというプロジェクトだ。指揮を執る高橋啓一・上席総括学芸員(古生物学)が熱を込めて続ける。

 「琵琶湖に生息する多くの固有の生物は、湖が現在の形になった約40万年前ごろに元の種から分かれて生まれたとされてきた。だが、この説を覆す研究結果が出てきている」

 例えば、淡水魚のホンモロコも約40万年前、元の種から分化して琵琶湖固有種となったと考えられてきた。京都大大学院理学研究科の渡辺勝敏准教授(動物生態学)らの研究グループが遺伝子解析を行ったところ、分化したのは約170万年前だったということが明らかになった。

 新たに始動した同博物館のプロジェクトに参画する渡辺准教授は「琵琶湖固有種とされる魚類のほぼ全てで、その分化した時期が40万年前をさらにさかのぼるのではないか」とみる。

 これまでの調査で生息が確認された微小生物たちに関するデータも、「琵琶湖史の見直し」という壮大なプロジェクトに大きく貢献できるのでは、と期待が寄せられる。研究者たちの挑戦は始まったばかりだ。

 ■無限に広がる

 これまで存在すら知られていなかった微小生物たちが秘める可能性は、琵琶湖史研究への貢献だけにとどまらない。

 歴史を振り返ると、微小生物が作り出すペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質が医療分野に飛躍的な進歩をもたらしたことはよく知られている。

 大正時代に琵琶湖研究の拠点として大津市に設置された京都帝大医科大付属臨湖実験所の歴史を継承する京都大生態学研究センターの中野伸一センター長(陸水生態学)が指摘する。

 「研究者は、主として微小生物の生態解明に力を注いできた。この先、さらに生物の持つ有用な能力が何か明らかにされれば、民間企業などがそれに目を付けて研究開発を進め、活用方法が広がっていく」

 健康食品として商品化されたり、タンカーの重油流出事故で海水面の重油を分解するのに使われたりと、人間はさまざまな分野で微小生物が持つ秘めた力の恩恵を受けている。

 一方、大きさ約0・1ミリの微細藻類「ミドリムシ」に着目しているのは、石油元売大手「JX日鉱日石エネルギー」やベンチャー企業「ユーグレナ」などでつくる共同研究グループだ。グループでは、ミドリムシを原料にしてジェット機の燃料を製造する技術の開発を進めている。ミドリムシの培養技術を持つユーグレナは「ミドリムシに含まれる油脂分がジェット燃料に似た炭素構造を持っている点に着目した」と説明する。

 ■秘めた力に込める期待

 「ミドリムシなどは大量に培養できる技術が確立されているため商業利用が進んでいるが、ほとんどの微小生物は研究者が少ないのがネックで、まだまだ解明が進んでいない。もっと注目が集まれば、サイエンス全体の枠組みは劇的に広がるはずだ」

 微小生物生息調査のアドバイザーを務めた法政大自然科学センターの月井雄二教授(原生生物学)が期待を込めつつ調査の成果を評価する。

 医療の進展、エネルギー革命、環境浄化への貢献…。日本一大きな湖で見つかった小さな生物たちも、魅力的な能力を秘めていることは大いに考えられる。肉眼では見えない存在だが、人類の未来を明るく照らす希望の命だ。 (小川勝也) 

+Yahoo!ニュース-社会-産経新聞

Posted by jun at 2013年07月16日 15:12 in 自然環境関連

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