アメリカ南西部、アリゾナ州のグランドキャニオンでは、侵略的外来種タマリスク(ギョリュウ、ソルトシダー)が繁殖し、川沿いに自生していた樹木を駆逐してしまった。しかし、絶滅の危機に瀕するスズメ大の鳴き鳥、メジロハエトリの住処となっているため、駆除は容易ではないという。
過去数十年、生物学者たちは高さ5メートルにも達するタマリスクを駆除しようと試みてきた。手で抜いたり、除草剤を使ったり、さまざまな手段が模索された。その後、タマリスクを食べるハムシを生物農薬として導入し、大きな効果が上がった。しかし今やミイラ取りのたとえが現実のものになろうとしている。あまりにも速くタマリスクが一掃されるため、タマリスクを含めた生態系に適応してきた種が対応できない恐れがあるのだ。
ヨーロッパやアジア原産のタマリスクがアメリカに最初に植えられたのは1800年代初頭。西部地域の庭の装飾や川沿いの土壌の安定が当初の目的だった。
1940年代以降、定着した土地からタマリスクを駆除しようとする動きが始まり、特に国立公園では積極的な取り組みが進められた。土着の動植物をさまざまな危険から守る役目のアメリカ国立公園局にとって、タマリスクなど侵略的外来種は標的となった。
しかし、グランドキャニオンでは既にタマリスクが完全に定着している地域があり、駆除作業は思うように進まなかった。
この状況がハムシの一種、ソルトシダー・リーフ・ビートル(salt cedar leaf beetle、学名:Diorhabda carinulata)の導入によって一変する。喜んだのはつかの間、ハムシの繁殖は予想を超えて広がった。ハムシによる駆除ペースがあまりにも速く、タマリスクに慣れた野生生物が適応できなくなってしまった。
ハムシの導入が始まったのは1990年代後半で、カザフスタン産などの幼虫をアメリカ農務省(USDA)動植物衛生検査局が輸入した。
2001年以降、本格的な利用が開始されたが、アメリカ魚類野生生物局の指導に基づき、メジロハエトリの営巣地から約320キロ以内は例外となった。1995年から絶滅危惧種に指定されているメジロハエトリは既にタマリスクに依存し、本来の営巣木が周辺にある場合でもタマリスクで巣作りを行うようになっている。
ところが2009年後半にグランドキャニオン国立公園の北東、アリゾナ州リーズフェリーの下流およそ20キロでハムシが発見され、生物学者に衝撃を与えた。予想を遙かに超える拡大スピードだったのだ。
ハムシによる駆除があまりにも速く進むと、メジロハエトリなどタマリスクに適応した種に影響を与えるばかりか、ほかの侵略的な植物種が跡を襲う恐れもある。このような植物の多くはヤナギなどの自生種と比べて水を大量に消費するため、川が干上がってしまうかもしれない。
つまり、タマリスクの除去は適切な種の植樹と並行して行う必要がある。ハムシの繁殖ペースとの競争になるが、グランドキャニオン国立公園の植生プログラムマネージャーを務めるローリ・マカリック(Lori Makarick)氏は、「幸運なことに自生種も成長が速く、懸命に植樹を進めている」と話す。
ただし、ハムシの行動は必ずしも一様ではないようだ。アリゾナ州フラッグスタッフにある北アリゾナ大学の植物生態学者ケビン・ハルティン(Kevin Hultine)氏は、「タマリスクの“死亡率”が70%以上の地域もあるが、丸々生き残っている一帯もある」と説明する。
また、生態系がハムシの侵略にうまく対処している兆しも現れているという。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で河岸生態系を研究するトム・ダッドリー氏は、「エサにする鳥もいる。ハムシが定着した地域は鳥の種類も量も豊富だ」と述べる。
USDA農業研究局を先ほど退職した昆虫学者ジャック・デローチ氏は、ハムシ導入の先導役を務めた人物で、かつてこのプロジェクトを「アメリカで最も成功した生物的防除プロジェクト」と評していた。同氏は現在も立場を変えていない。
「タマリスクは営巣木に適していない。樹冠が安定しているので好まれるが、ヤナギと違って巣が下から丸見えだ。コウウチョウなどの天敵が容易に襲うことができる」。
カリフォルニア大学のダッドリー氏によると、本来の自生種の回復が進んでいる地域では、メジロハエトリの巣作りにも変化が現れているという。自生種のヤナギに戻った場合、無事に巣立つヒナの数が、タマリスクで生活していた前年と比べて3倍に増加したというデータもある。
元USDAのデローチ氏は、「タマリスクは生態系にとって非常に有害だから駆除は必然だ。ハムシが野鳥にダメージを与えているなんてデマに決まっている。証拠があるなら見せて欲しい」と主張している。
Anne Minard for National Geographic News
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Posted by jun at 2011年04月25日 12:53 in 外来生物問題